バックアップの大切さを伝えたい──誰でも簡単にバックアップできる製品づくりへ挑戦

2020.04.27
2020年3⽉現在、オウルテックに⼊社して2年⽬の清⽔ 省吾は、23年前に写真業界から⾃⾝のキャリアをスタートさせた。写真への想いが強く、自身がスマートフォンを紛失してデータを失った経験から、写真を自動でバックアップするデバイス「BOXCUBE」(ボックスキューブ)の商品開発を始めました。

オウルテックはスマートフォンの周辺機器を中心に、オーディオ関連やパソコン周辺機器、アウトドアや防災関連などの製品を企画・製造・販売しているメーカーです。私は充電器の開発を担当しています。

オウルテックに入社したのは2018年、47歳のときです。その当時、充電器を他社と差別化するにはどうしたら良いか常に考えていました。

そこで気になったのが、データのバックアップです。

時代の流れから、デジタルカメラの普及で「写真を撮ったらすぐに画像を確認して写真を現像に出す」という行為自体が少なくなっています。写真を紙で残さなくなった世の中なので、よりデータのバックアップが重要です。

また、端末の故障や紛失によって大切なデータを失うことって、意外と経験した方が多いのではないでしょうか。以前私も端末内のデータが消えたり、スマートフォンを紛失したりして思い出の写真をなくす経験をしています。

そんな経験をして、悲しい気持ちになる人を少しでも減らす製品をつくりたい、そういった想いから「BOXCUBE」(ボックスキューブ)というスマートフォン内の画像・動画などの大切な思い出を充電中に自動でバックアップできる商品を企画しました。

「スマートフォンの充電中にデータのバックアップも行う」という製品はこれまでもあったのですが、私は安心できる製品をつくるためにApple向けアクセサリー製品の認証規格であるMFi認証の取得や、Android端末で利用できるようにしたいと考えました。

日常生活の中にバックアップを溶け込ませる

BOXCUBEの開発当初に、世の中の多くの方がクラウドサービスを利用することに抵抗があることがわかりました。一般のご家庭においてパソコンの所有率は年々低下傾向にあり、クラウドを利用して写真などをバックアップしている方は40%弱しかいません。

それは、データを保存するのにかかるコストへの不満と、もしものときにデータを正常に復元できるのかという不安があるからではないでしょうか。

当時市場にはiOSとAndroidそれぞれのバックアップ用の商品はありました。しかし、iOS用の商品にMFi認証を取得している安心なものはありませんでした。

また多くのAndroid端末のようにmicro SDカードスロットを備えている場合、カードにバックアップを保存しておけば、端末が壊れてもデータを取り出すことは容易です。しかし、そもそも端末ごと紛失してしまっては内部に保存しているデータも取り出しようがないんです。

そこでiOSとAndroid両方に対応するバックアップ用の商品をつくろうと考えました。個人端末はiPhoneで会社端末はAndroidという方々に対して、需要があると感じたのです。

さらに「どうしたら自分の親世代がバックアップをするようになるか?」と考えてみました。その結果、バックアップをするのに難しい設定をなくし、より“簡単に”そして“物理的に”できるしくみでなければならないという結論にいたりました。そこで、充電するときに同時にバックアップを行うことで手間を減らすことができると思いついたんです。

思い出や大切なデータの損失は予期せずやって来ます。しかし、充電するときにバックアップを行うことで、日常生活を過ごしながらも日々データ損失への対策ができるんです。

また、スマートフォンからパソコンへのデータ移動も、BOXCUBE本体をカードリーダーのようにパソコンに接続することで簡単にできるようにしました。

とにかくバックアップにまつわる「複雑」や「⾯倒」というイメージを払拭するため、簡単にできることにこだわって、日常生活の中にバックアップを溶け込ませることに注力しました。

不具合の改善に試行錯誤。待っていたのはユーザーからの多数の反応

商品の開発中に1番苦労したのは、不具合の修正に時間がかかったことです。BOXCUBE用のアプリも新規に開発したためです。1点修正すると別の不具合が出て、その修正に試行錯誤する日々でした。

1番焦ったのは、BOXCUBEの古いバージョンでフォーマットされたmicro SDカードが、新しいバージョンで読み書きができないと不具合が出たときでした。

発売まで1カ月を切ってからわかったことだったので、不具合を修正して発売できるか毎日不安でしたが、幸い1週間後に完成した新しいバージョンで不具合を解消できました。

開発側と企画側で定期的に会議を行い、不具合やスケジュールを迅速に解決して、なんとか期日までには商品化できたのでほっとしましたね。

この経験を通じてアプリ開発の難しさを肌身で感じました。しかし、不具合を一つひとつつぶしてより使いやすいものになったときにやりがいを感じられました。

2020年2月にBOXCUBEをクラウドファンディングで発表し、間もなく500個を超える受注があり、最終的に1,272人の方に興味を持ってもらえました。「iOSとAndroidの両方に対応する」という他にはない商品だったところが需要の掘り起こしにつながり、ユーザーから多数の反応があったんです。

また、接続するだけでバックアップできる簡単さが、世の中の方に受け入れられたのは嬉しいですね。

一般販売でも好評を得られるよう、この勢いを継続していきたいです。

クラウドファンディングも終わり……。いよいよ一般発売

振り返るとBOXCUBEは開発チーム、自社の検証チーム、デザインチームの総勢15名でつくり上げた商品です。それぞれの役割分担を明確にしたチームプレーは、商品を企画・製造・販売していく上で重要でした。

商品化までの道のりは大変でしたが、その分市場に展開した後にユーザーから得る喜びの声も大きく、嬉しさとやりがいを感じています。

2020年3月20日にはクラウドファンディングが終了し、翌月の4月中旬には最初のロットお客様の手元に届く予定です。

また、より多くの方にiOSとAndroid端末の両方に対応している仕様で簡単にバックアップできるという便利さをアピールし、BtoB案件やOEMなどに採用していただけるように発展させたいです。

「BOXCUBE」は万が一のときのために大切な思い出が家に保存されて、パソコンなどにさらに写真を読み込むのも簡単にできて便利ですが、紙にプリントした写真を本のアルバムに入れて大切に保管するという昭和回帰な文化も残ってほしいです。

アルバムを実際にめくりながら家族の思い出をみんなで見るのも良いと思います。ぜひBOXCUBEを使ってバックアップを取り、そのデータをパソコンや街の写真屋さんで印刷してほしいです。