メーカー都合を離れ、ユーザーに寄り添う開発を。私たちのドライブレコーダーが人気を得た道のり

2019.07.15
日本の交通事情は実にユニーク。たとえば西と東で信号機の点滅間隔に差が。一方で車用機器には海外製が主流の商品も。ドライブレコーダーもそのひとつです。株式会社オウルテックもその開発に奔走していましたが、当初は苦戦。同じタイミングで入社した企画担当の小川真に、その命運が託されました。

交通事故の過剰なリスクを減らすため、もっと日本にドライブレコーダーを!

▲開発担当の小川。前職は半導体のエンジニアと、ドライブレコーダーとは無縁のキャリアでした

まさか、自分がドライブレコーダーの開発を担当するとは。

2015年10月に入社した小川にとって、ドライブレコーダー企画職への任命は、いわば青天のへきれきでした。なぜなら、オウルテックはパソコンとスマートフォンの周辺機器メーカーとして知られる企業なのです。カー用品は、あくまで新規事業。

小川が入社するまでに、DR01シリーズとDR02シリーズという2世代のドライブレコーダーを開発しましたが、販売実績を伸ばせずに踏ん張る日々が続いていました。当然、ドライブレコーダーメーカーとしての認知度は低く、小川も入社まで知らなかったほど。

しかし、会社として、決して撤退の道は選ばなかったのです。ドライブレコーダーには、開発する価値があります。不運に見舞われて交通事故に遭った際、ドライブレコーダーで事故時の映像を記録しておくと避けられる事後のリスクが山ほどあるから。

たとえば、衝突時の記録を残せば、信号機の赤青をはじめとした状況確認ができ、正確な過失割合を定められます。過剰な賠償金を支払わずに済みますし、万が一、当たり屋に遭ってしまっても、裁判で被害を証明するための有力な証拠を得られる可能性も。

交通事故の被害に苦しみ、人生を狂わせてしまう人を少しでも減らすことができる。そんな社会的役割を担うドライブレコーダーだからこそ、どうすればDRシリーズを広めて、世の中の役に立つことができるのか模索する道を進んできたのです。

そんなオウルテックに入社し、偶然、巡ってきたドライブレコーダー企画職への任命は、小川にとって目の前の道に霧が立ち込める先の見えない出来事でした。


基本から見つめ直したから晴れた霧!
DRシリーズに必要だった唯一の進路

▲シンプルさと機能性を突き詰めたDRシリーズ。ユーザーニーズに向き合い続け、愛されるプロダクトに

一体、何から手をつけるといいのやら?小川がわからなかったのも無理はありません。前職で、光ディスクにまつわるドライブや半導体の企画・設計に従事した20年以上のキャリアを持つものの、カメラは趣味でたしなむレベル。ドライブレコーダーに至っては、まったくの素人でした。

そこで小川はすぐに設計せず、あらゆる視点でドライブレコーダーを学ぶことからスタート。この初心者なりに踏み出した一歩が、のちのちひとつの答えを示すことに。

小川はまずドライブレコーダーの仕組みを調べました。すると主要部品であるシステムLSI(大規模集積回路)がカギを握っていることに気づきます。システムLSIはひとつ開発するために数億円かかる部品。開発費を回収するために、ドライブレコーダーに限らずあらゆるカメラで利用できるような、いわば汎用的な設計をすることが主流です。

そのため、運転中は常に車の電源で撮影できるドライブレコーダーなのに、節電しようと自動で電源オフになるというような不必要な機能が備わってしまうことも。このように無駄に多機能を搭載したドラレコは、購入時に比較検討することを難しくします。

売り場に立つ販売員でさえ、メーカーごとの魅力を説明しにくく、必然的に市場シェアを占める中国や台湾のドライブレコーダーが売れる現状。それでは、オウルテックのDRシリーズが箸にも棒にもひっかからないわけです。小川はピンときます。

「もっとシンプルに……事故の瞬間を記録することに特化しよう!」

この決断が、中国や台湾のドライブレコーダーに追随して開発してきたDRシリーズを、シンプル路線に変更する契機となりました。開発費の回収という“メーカー都合”を離れ、ドライバーや販売員の立場になって考える“ユーザー思考”を取り、DRシリーズの次世代機を開発する青信号が灯ったのです。


徹底したユーザー思考と列島縦断で日本に適したドライブレコーダーへ!

▲西日本と東日本の点滅差の解明に役立った「しみずくん」も大切な仲間

答えは開発現場にはない、利用シーンにある!ユーザー調査に取り組み、営業担当と協力して販売員の声を踏まえ、DRシリーズ次世代機の開発は、主にふたつの改良を試みました。

その1:ドライブレコーダーに備える機能と性能を厳選
→ドライブレコーダー本体は小さいため、最小限のボタンしか設置できません。そのため、多機能だと少ないボタンを押す順番が複雑になり、直感的に操作できず、ユーザーが使いにくいツールに。次世代機の開発にあたり、改めてドライブレコーダー本来の用途を洗い出して、必要な機能と性能を厳選しました。

その2:事故の瞬間を記録する撮影機能の強化
→どれくらい鮮明な映像として事故を記録すればいいのか。事後のリスクに備えるために最低でもフルHDの解像度が必要だと考え、高画質にしました。また、広角レンズを用いて撮影範囲を広げることにも成功。事故現場が暗くてもクリアに撮影できるHDR機能も備えました。

開発時には、小川を含む開発陣が足を使った調査も行なっています。たとえば、信号機。西日本と東日本で信号の点滅する間隔に差があること、ご存じでしょうか。

そこで開発陣は、信号機2種類が使い分けられている境目の富士川を越え、静岡県の清水まで出向きます。西日本と東日本、それぞれ異なる点滅の信号機でもDRシリーズ次世代機が撮影可能か実験するためです。往復を繰り返す苦労を少しでも減らすために開発した実験器具には、親しみがわき「しみずくん」という愛称がつくほど、繰り返し実験しました。

このようなユーザー思考と足で積み重ねた開発により、次世代機DR04シリーズが誕生。リリース後、大きな賛辞とともにオウルテックの新しいドライブレコーダーはドライバーや販売員に受け入れられたのです。


次世代機DR04シリーズが完成!
今後も交通事故のリスクを減らす道は続く

▲ユーザーファーストを追求し、DR04シリーズは多くの雑誌でも取り上げられるほどの人気プロダクトに

利用シーンに最適なドライブレコーダー、それがオウルテックのDR04シリーズです。

このドライブレコーダーは、156°の広角レンズで、事故時の状況を隅々まで記録できます。また、プライバシーオート録音機能が、事故時の音声のみを記録することを実現。通常の走行中も会話が録音されてしまうというストレスからドライバーを解放しました。

また、無駄だった自動で電源オフにする機能を利用して、無操作時のオート録画機能も実装。ドライバーがドライブレコーダーの操作方法に手間取ってしまっても、一定時間経過したら撮影がはじまることに。記録ミスを予防することに一役買っています。

常時、カメラを回しておく必要があるドライブレコーダーにとって、電源オフは必要のない機能でも、ユーザーの操作がなくても何かの処理を実行するプログラムは有用な仕組み。小川がオート録画のためにこのプログラムを利用できると気づけたのは、ユーザーの立場になって考えたたまものです。

このようにドライバーにやさしくなったDR04シリーズは、雑誌「モノクロ」(晋遊舎)に紹介され、車業界以外のユーザーへの認知を広げることに。売上は伸び、DR05シリーズやDR06シリーズのリリースにまでつながりました。

交通事故の悲しみは、今も日本の課題です。あおり運転による事故がニュース番組で取り上げられる機会も少なくありません。DRシリーズは前方の撮影に特化したドライブレコーダーですが、今後オウルテックでは、後方撮影に利用できるドライブレコーダーの開発にも挑戦したいと考えています。

なぜなら、ドライブレコーダーというツールが社会に役立つ価値をまだまだ秘めているから。ドライブレコーダーの社会的役割を広げて、世の中のために事業を続けていくことに、オウルテックはこれからもまい進していきます。利用シーンに合わせた、シンプル路線という一車線をひた向きに走りながらーー。